2016年に入学し、途中1年留学に行き計7年間要した大学生活もようやく終わりました。
入学前はどうなるかと思った”陸の孤島”である帯広での大学生活でしたが、7年経った今思い返してみると本当に貴重な経験がたくさんできました。
全3回の記事に分け、帯広畜産大学(畜大)の共同獣医学課程でどのような授業があり何を学んだか、そしてサークル、アルバイト、寮生活など授業以外の活動にもフォーカスを当てて、「帯広畜産大学に入るとこんなことが経験できるよ」ということを書いていきます。
獣医学部に入ろうと思っている中高生やその親御さん、そして一次産業などに将来携わりたいと考えている方に読んでいただき、畜大で6年間を過ごした僕の生の声を聞いていただければと思います。
畜大に興味を持って、入りたいと思う人がたくさん増えるといいな〜!
その1は大学1,2年生についてです!
畜大の基本情報
本題に移る前に畜大の基本情報について。
カロリーベースでの食料自給率が1200%を占める十勝。その中核となる帯広市に畜大はあります。
大学は市の中心地から少し離れたところにあり、車で5分も移動すれば畑や牧場が広がるという獣医学・農学を学ぶにはうってつけの場所に位置します。
畜大は「全国唯一の国立農学系単科大学」と謳われます。そのため学部は「畜産学部」の1つだけです。
畜産学部は40名からなる「共同獣医学課程」と210名からなる「畜産科学課程」の2つに分けられますが、併せても1学年250人しかいません。ちなみに畜産科学課程の方は2年生からさらに細かく6つのユニットに分かれます。
また、畜産学部には含まれませんが2年制の「別科<酪農専修>」というコースもあります。
定員40名(前期30、後期10)。
その名の通り、獣医学を学ぶ。北海道大学と畜大で両大学の強みを出し合い、共通のカリキュラムを学生は学ぶため「共同」と銘打っている。卒後は獣医師国家試験を受験し、動物病院、農業共済(牛・馬の獣医)、公務員、製薬会社などに勤務する。
定員210名(前期130名、後期25名、学校推薦型選抜55名)。
「家畜生産科学」、「環境生態学」、「食品科学」、「農業経済学」、「農業環境工学」、「植物生産科学」の6つのユニットに分かれる。このように”畜産科学”という名前ではあるが畜産だけでなく、環境、植物、はたまた経済学や工学なども学ぶことができる。
卒後の進路は多様であるが、食品メーカー、乳業メーカー、農協、公務員などが多い。
定員15名(推薦入試10名、一般入試5名)。
2年制であるため、実習に割かれる時間が多い印象。取得可能な資格として「家畜人工授精師(牛)」、「認定牛削蹄師」がある。
令和4年度の志願者数や入学数は以下のリンクからご覧になれます。
獣医の倍率は毎年5倍程度ですが、畜大に限らず国立の獣医はどこもこれくらいの倍率です。
獣医が狭き門と言われるのはこれが理由です。
2022年4月から畜大、小樽商科大学、北見工業大学の法人が経営統合され、「北海道国立大学機構」が設立されました。
これにより3大学が連携して教育や研究を行うそうなのですが、僕は統合直後の1年しか在籍していなかったので直接的な恩恵は受けられませんでした。
もっと紹介したいことはあるのですが、本題ではありませんしこれから大学生活を1年ごとに振り返っていく過程でさらにお伝えできるかと思います。
ネットで検索するとデジタルパンフレットがあるので、さらに興味のある方はそちらをご覧ください。
さて、前置きも済んだところで本題の学年ごとの振り返りに移ります。まずは1年生からです!!
1年生 〜豚とイモと外国語〜
地元を離れて帯広にきた日のことは今でも鮮明に覚えています。
新千歳空港に降り立ち、南千歳駅にまで電車で移動。その後は特急に乗って車窓から残雪を見ながら帯広へと移動しました。
駅に着くとバスに乗って大学方面に向かいました。僕は大学の寮に入ることになっていたので、バス停に着くとそのまま寮に歩いていきました。
寮には5年生の終わりまで住んでいましたが、ここから僕の畜大生活が始まりました。
初めての共同生活でした。学部1年生から6年目の先輩などいろんな学年が住んでいる寮でうまくやっていけるか当初は不安でした。
今は個室になった寮ですが、僕が入った頃はまだ二人部屋。1年生は先輩と相部屋になることがルールで僕は畜産2年の方と同じ部屋で生活することになりました。
最初の1週間、新入寮生は寮のルールを先輩から厳しく教えられたりしましたが、それが終わると先輩方にはとても優しくしていただきました。
また、1年生どうしのつながりも強く、みんなで遊んだりご飯を食べに行ったりしたため、不慣れな土地での新生活でしたがすぐに快適なものとなりました。
次は授業について。
畜大の1年生で目玉だったのが農畜産実習。この実習ではみんなでじゃがいもを育てたり、各々自分の好きな植物を育てたり、乗馬体験をしました。
しかしこの実習で中心となったのが豚の飼育です。獣医は一学年40人なのでクラスで1頭、畜産科学課程は5クラス程度に分かれて、同様に各クラス1頭ずつ生後数ヶ月の豚を飼育しました。
豚の飼育は入学式の翌週ぐらいから始まり、各クラス当番制で毎朝世話をしました。1限から授業がある日も雨の日も豚の当番はあり、そのようにして3ヶ月ほど世話をしたあと豚をカートに乗せてとある場所まで移動させました。
畜大は日本の大学で唯一構内にと畜施設を持っています。もうお分かりのように、この実習では手塩にかけてみんなで育てた豚を”と殺”するのです。
クラス40人で豚をそこまで運び、細長い箱のようなものに入れると、一歩下がり豚の周りをみんなで囲みました。その後、普段はと畜場で働いている方(?)が来てくださり、電気ショックを与えて豚が気絶すると首の血管を素早く切り開いて血を抜きました。
実際のと殺自体は大人がやってくださるので僕らは見ているだけですが、目の前でこれだけ大きな生き物が殺されるのをみるのは初めてであり、衝撃的でした。
血抜きが終わると豚は足を吊るされて隣の部屋に運ばれ、枝肉になるまで処理されます。
後日行われた「ソーセージ実習」ではこの豚肉を使って自分達でソーセージを作りました。
この農畜産実習は1年生の前期に行われるのですが、最後の実習では収穫祭と称してクラスのみんなとBBQをします。使うお肉はもちろん自分達で育てた豚のもので、実習で作成したソーセージも頂きました。このほかに、好きな野菜を各々育てていたためこれらも同時に食べました。
また、大学の農場で得られた牛乳を用いてバター作りやアイスクリーム作りをしました。
この実習を通じて、「食べ物を自分達で作って食す」という一連の流れを体験することができ、特に自分達で育てた豚を食べるという経験によって他の生き物の命をいただくことで私たちは生活できているということを再確認することができました。
さて、実習についてはこれぐらいにして次に授業についてです。1年生のうちは獣医学について学ぶことはありません。
これは畜大が共同獣医学課程によって北大のカリキュラムと連携しているためです。(北大は2年生になってから総合理系から獣医学部に移動してくる学生がいるため1年生から専門科目を始められません)
そのため、1年生のうちは農業や畜産業に関する授業はもちろんのこと英語、第二言語や生物学、文学などの一般教養の授業を受けました。
英語はアメリカ人のネイティブの先生が全て英語で行ってくださりました。また、リーディングの課題ではPenguin Readersなどの洋書を読み、その本に関するクイズを毎回解くことになっていました。
このような取り組みがあり、規模が小さい大学ではありますが高校よりも実践的な英語を学ぶことができました。
面白い実習などが目白押しであり、入学から瞬く間に時間が過ぎて前期が終わりました。
夏休みは他の大学と同様に8月の中旬から9月末まで1ヶ月半ほどあります。
せっかく夏休みが始まったのに、1週目は北大生が畜大に来て一緒に実習がありました。内容はよく覚えていないのですが、ディスカッションなどをした覚えがあります。北大生は他にも畜大生が前期にわたって行った農畜産実習(と畜、ソーセージづくりなど)を3日間程度の過密スケジュールで押し込まれます。
あとは夏休みといったら「農家バイト」です。多くの畜大生は夏休みに畑で汗を流します。
僕も例に漏れず、夏休みはじゃがいもやかぼちゃの収穫バイトに参加しました。
地元にいるときは一次産業に触れる機会といったら田植え体験ぐらいでしたが、このように農家さんでバイトをさせていただけるのも畜大の大きな特徴。
お金も普通のバイトよりも多めにもらえるので、夏休みに集中的に入ってお金を貯めて帰省したり旅行する畜大生がたくさんいます。
サークル活動にも参加しました。
大学に入る前から入ろうと決心していた「ゼニガタアザラシ研究グループ」の調査が2回夏休みに行われるので、夏休みの最初と最後の一週間は北海道の東部の沿岸でテント生活をしていましたね笑
ゼニ研については過去の記事でまとめているので気になる方はそちらをご覧ください。
「ゼニガタアザラシ研究グループ」という唯一無二のサークル他にも畜大にはユニークな部活があるのでいくつか紹介します!!
畜大内には「畜産フィールド科学センター」という大学の農場があり、ここで飼育されている牛から毎朝夕搾乳を行うのがうしぶ。の主な活動。搾られた生乳は殺菌などの処理の後、「畜大牛乳」や「畜大アイスクリーム」として販売される。大学内の生協や近くのスーパーなどで購入可能。
大学の総合研究棟1号館の屋上でミツバチを飼育しているサークル。ハチミツの採取も行い、商品として販売している。越冬にも成功しているそうで、本格的な養蜂に携わることができる。
前期はかなり忙しかったですが、後期に入ると授業と実習が少なくなりとても暇な時間が増えました。全休や午前休の日も多くありました。
ということで自動車学校に通い始めることに。公共交通機関があまり発達していない帯広では車がないと生活できません。
雪がなければ自転車である程度は行動できるのですが、雪が降ると徒歩で行ける場所は近所のローソンとダイイチというスーパーぐらいになってしまいます。
他にも、北海道では車を持つといろんなところに観光に行けますし、ゼニガタアザラシ研究グループでの調査にも車が不可欠でした。2年生になると授業と実習で忙しくなるので、1年生のうちに免許をとる人が多いようです。
僕は友達と一緒に10月の中旬に入学し、最終的に免許を取ったのは1月上旬でした。大学の授業がない分、自動車学校にたくさん行けたので比較的短期間で免許を取得することができました。肝心の車は親に懇願して買ってもらい、3月に旅行も兼ねて家族が運転して地元から持ってきてくれました。
ちなみに、畜大生のほとんど(調査とかしたわけではないですが肌感覚で9割以上)が車を所有しています。畜大進学を考えている高校生やその親御さんは、このことも念頭に置いておく必要があると思います。
時間に余裕ができたのでアルバイトも始めました。
歩いて行ける距離にある病院でお皿洗いのバイトがあったので応募しました。高校ではバイトが禁止されていたため、初めての定期バイトでした。
1年生の冬に寮で大きな出来事が起きます。
入口は別で行き来もできないのですが、畜大は男子寮と女子寮が同じ建物で、それぞれ5階まであります。
男子寮はかなり空き部屋があり、希望すれば全員入寮することができました。しかし、女子寮はかなり満杯で家庭の経済状況によっては希望しても寮に入れない学生が多々いました。
そんな問題を解決するために教務課は型破りな決断を下しました。それは、
「男子寮の5階を潰して、女子寮にする」です。
もちろん男子寮生は反対しました。しかし大学はその決定を変更せず、僕たちはこれを受け入れざるを得ませんでした。
5階あったフロアが4階になるに伴い、フロアを合併したりする必要がありましたが、それは今までみんなで作ってきたコミュニティが無くなることを意味します。
全寮生が食堂に集まりみんなで話し合うことになりました。喧々諤々の議論を交わし、全寮生シャッフル、1フロアを解散し他の4フロアに分かれる、などの意見も出ましたが最終的に「2フロアを合併させる」という案に落ち着きました。
くじ引きで吸収されるところ、言い換えればフロアを失う階と吸収する側の階を決めました。各階代表の寮生が食堂の前方に集まりくじをひきました。
その結果、僕が住んでいた1階が不幸にも解散することになり、4階に吸収されることになりました。
この時の落胆と言ったら忘れることができません。まだ住み始めてから1年も経っていませんでしたが、上級生も優しくてとても住みやすかった1階がとても好きでした。
そんな1階が無くなるのは少し大袈裟ですが、実家を失うような思いでした。1年生の自分がこのように思っていたのですから、さらに長いこと住んでいた先輩方にとっては胸の裂ける出来事だったと思います。
また、今まで話したことのない4階先輩方と生活するのも非常に緊張しましたし、1階から4階まで荷物運ぶのも一苦労で色々と憂鬱でしたが1階の同期・先輩方と一緒に移れるので、そういう面では安心しました。
最初こそ嫌々な合併でしたが、実は大きな恩恵を受けることになります。
それは同じ階で生活する同期が増えたことです。
1年生は1階に7人、4階に4人いたので合併により同期が11人に増えました。
彼らのおかげで大学生活が楽しくなりましたし、先日も自分の卒業に合わせて帯広に戻ってきてくれるなど卒後もみんなで仲良くしています。
合併がなければこんなに充実した寮生活を送ることはできなかったと思います。
このように1年生後期は授業こそ楽だったものの、波瀾万丈な学期となりました。
話は変わりますが、春休みに海外に行くことを考えていたため学期中はその準備をしていました。お金がたくさんあるわけではないので、できるだけ安く滞在する方法を考えた結果、ファームステイをすることにしました。
不慣れな英語で外国のホストとメッセージのやり取りをしたり、初めてクレジットカードを作ったり、パスポートの申請をしたりと色々準備することがあって大変でしたが、どれもいい経験となりました。
これに関しては他の記事で紹介しているのでぜひそちらもご覧ください。
WWOOFでファームステイ in NZこのような感じで1年生が終わりました。
お次はテスト地獄が始まった2年生です。
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